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エントロピーは増大する!?について考えてみる(まとめ中)


エントロピーとはなんだろうか?大学で熱力学は習ったが、ずーっと腑に落ちていない。仕事で使うことはほぼないと思うし、いままで使ったためしもなかったのでぼんやりしたままにしておいたが、ここでしっかり腑に落ちさせたいともうので、いまはやりのリスキリングの波に乗て復習しておきたいともう。

1.エントロピーとはなんだ?エントロピーというものの概要

1-1. エントロピーは熱量変化を表すときの単なる状態量の一つである
1-2. エントロピーを使うことでエネルギー変化が理想からどの程度乖離しているかを評価できる
1-3. T-s線図(温度ーエントロピー線図)を使うことで、熱量変化が簡単に視覚化できる
1-4. 可逆変化でない限り、実際の変化では様々な損失があるため数式上、エントロピーは増大する。

演習工業熱力学 [ 小沢守 ]

2.エントロピーを学ぶ上での基礎知識

2-1. 等温変化  

   一定温度の下での状態変化である。等温膨張中に加えられた熱量は、すべて外部にする仕事に変換される。

2-2. 断熱変化  
   摩擦などの内部発生熱がなく、外部に対しての熱の授受を一切行わない状態変化である。

2-3. カルノーサイクルと熱効率 \eta_c  

図1.カルノーサイクル



   等温変化と断熱変化を組み合わせて気体の膨張・収縮を繰り返し、連続的に外部への仕事を行うことができる理想の熱機関。温度 T_1 の高温熱源から Q_1 の熱をもらって仕事 Wc を行い、温度 T_2 の低温熱源に Q_2 の熱を捨てる場合の熱効率は、

   熱効率:\displaystyle \eta_C=\frac{W_C}{Q_1}=\frac{Q_1-Q_2}{Q_1}=1-\frac{Q_2}{Q_1}=1-\frac{T_2}{T_1}

2-4. 実サイクルと熱効率 \eta_{act}  
   実際のサイクルでは熱源の温度は同じであっても、摩擦や外部放熱により熱効率は低下する。受熱量 Q_1カルノーサイクルと変わらず、実サイクルの放熱量を Q_2 として、カルノーサイクルと効率を比較すると、

\displaystyle \eta_C \gt \eta_{act} 

\displaystyle \to 1-\frac{T_2}{T_1}\gt1-\frac{Q_2}{Q_1}

\displaystyle \to \frac{T_2}{T_1}\gt\frac{Q_2}{Q_1}

\displaystyle \to \frac{Q_1}{T_1}\gt\frac{Q_2}{T_2}  ・・・(1)


2-5. クラジウスの積分  
   可逆サイクルは多数の断熱線で分割することができ、それぞれ分割したものを微小な等温変化と断熱変化で構成されるカルノーサイクルで置き換えることができる。

図2.クラジウスの積分



   そこで一つの微小カルノーサイクルについて考えると T_i の高温熱源から \varDelta Q_i を受熱し、 T_i’ の低温熱源へ \varDelta Q_i' を放熱しているため、

 \displaystyle \frac{\varDelta Q_i}{T_i}+\frac{\varDelta Q_i'}{T_i'}=0

が成立し、それぞれの微小カルノーサイクルにおいて同様に成り立つことから、一般の可逆サイクルでの \displaystyle \frac{\varDelta Q}{T}\displaystyle \frac{\varDelta Q'}{T'} はそれぞれの微小サイクルで相殺仕合うため、すべてを足し合わせたものはゼロとなる。

\displaystyle \sum_{i=1}^{n}\frac{\varDelta Q_i}{T_i}=0

さらに\ n\to \infty とすれば  

\displaystyle \oint \frac{dQ}{T}=0

となる。左辺をクラジウスの積分といい、可逆過程からなるサイクルではクラジウスの積分は「ゼロ」となる。

3.エントロピーの定義

いままでの基礎知識の中でしばしば登場したある式の形・・・\frac{dQ}{T}、なんだかこの式はこれからも幾度となく使いそうな雰囲気がる・・・。そう、それがエンタルピーの状態量を表す式なのだ。

可逆変化である状態1から別の状態2に変化した場合には、変化経路に無関係に\displaystyle \frac{dQ}{T}積分した値は一定値となり、  
\displaystyle \int_{1}^{2}\frac{dQ}{T}=Constant
である。ここでこの状態量を「エントロピー」と定義する、状態1から状態2へのエントロピー変化は、  
\displaystyle S_2-S_1=\int_{1}^{2} \frac{dQ}{T}  
と表される。

で、ここからは脱線ですが、、、

エントロピーはよくわからないというけれども、つまり、この  \displaystyle \frac{dQ}{T} が熱力学という学問を進める上で重要な量となっているから、もうそれに名前を付けてしまおうというノリでつけただけのこと、それ以上でも以下でもない(ちがうか!?)。「熱量変化÷温度」という式の意味をさぐろうとしてもなかなかイメージできないのは、(頭のいい人はできてるかもしれませんが)イメージできるものじゃないんだって認識したほうがよさそう。

たとえば「距離÷時間」というものを「速度」と名付けましょう、と、感覚的には同じなんじゃないか?じゃあ「速度って距離÷時間だけど、どういうことだろう?」と悩むのに似てないか?そう取り決めた定義をどこまでも掘っていったら禅問答になるようなもので、そういう量を定義しているんだから、禅問答をするよりも、この量がどういうときに使われて、何に役に立つかをたくさん問題を解いて考えたほうが有意義だ、ってことだ。

そんなことは教科書に誰も書いてくれないから多くの人が禅問答に答えを見つけようとして帰ってこれなくなるんだよ、って思いました。

まずは、1‐1~1‐4までの特徴を頭に入れて問題を解いて何に利用されているかを感じよう。ただ、練習問題もエントロピーを計算せよ、と書いているだけで、計算したら終わり、っていう問題ばかりで何のために答えさせるかが書いていない問題集の多いこと多いこと。何とかなりませんかね・・・

4.T-S線図で熱量が面積として計算できる

可逆変化の場合、対象としている系が外部とやり取りする熱量  dQ は、エントロピー  dS を用いて以下のように表される。

 dQ=TdS

ここで、エントロピー  S を横軸に、温度 T を縦軸にとった線図を「T-S線図」と呼び、状態1から状態2までの可逆変化を行わせた場合に系が外界より受ける熱量  Qは、

 \displaystyle Q=\sum_1^2TdS

であり、これは曲線1-2と横軸の間の面積に等しい。

これは結構ありがたい、いままでP-V線図はよく出てくるし感覚的にわかりやすいが、P-V線図では外部になした仕事はわかっても、熱量は見た目ではわからない。しかも個体→液体なんて相変化なんかは体積がかわらないからP-V線図では表現できない。それらが表現できて、熱量も視覚的に理解できるので現象現象理解の助けになる。

図3.T-S線図と不可逆変化の熱量


5.エントロピーは増大する

最後になんでこの言葉があらゆるところで使われるんだろうと思っていた、なんだかすごいことを言っていそうだが、何のことだかよくわからない。

可逆変化であるカルノーサイクル(添え字:C)と不可逆変化(添え字:act)での熱効率の比較から考える。

\displaystyle \eta_C=\frac{W_C}{Q1}=1-\frac{T_2}{T_1}

 \displaystyle \eta_{act}=\frac{W_{act}}{Q_1}=1-\frac{Q_{2act}}{Q_1}

であり、 \eta_C \gt \eta_{act} であるから

\displaystyle  1-\frac{T_2}{T_1}\gt1-\frac{Q_{2act}}{Q_1}

\displaystyle \to \frac{T_2}{T_1}\lt\frac{W_{2act}}{Q_1}\to \frac{Q_1}{T_1}\lt\frac{Q_{2act}}{T_2}

ここで受熱を正、放熱を負(Q_{2act}\to -Q_2 )として整理すると、

\displaystyle \to \frac{Q_1}{T_1}+\frac{Q_2}{T_2}\lt 0

ここで、図2のようなクラジウスの積分を考えてみると、可逆変化では等号だった式が、各微小サイクルで負の値を持ち、

 \displaystyle \frac{\varDelta Q_i}{T_i}+\frac{\varDelta Q_i'}{T_i'}\lt0

微小サイクルを足し合わせた総和は以下になる。

\displaystyle \oint\frac{dQ}{T}\lt0

そこで、図4のような片側が不可逆変化(a)と可逆変化(b)を考えると、

図5.不可逆変化を伴うサイクル

\displaystyle \oint\frac{dQ}{T}=\int_{1-a}^{2}\frac{dQ}{T}+\int_{2-b}^{1}\frac{dQ}{T}\lt0

\displaystyle \to \int_{1-a}^{2}\frac{dQ}{T}-\int_{1-b}^{2}\frac{dQ}{T}\lt0

\displaystyle \to \int_{1-a}^{2}\frac{dQ}{T}\lt\int_{1-b}^{2}\frac{dQ}{T}=S_2-S_1

\displaystyle \to S_2-S_1\gt \int_{1}^{2}\frac{dQ}{T}

外部の熱移動がなければ  dQ=0 なので、

S_2-S_1\gt0

つまり、不可逆変化際のエントロピーは必ず増大する。

というような経緯で、エントロピー増大則なるものができたんだが、どこかで宇宙を取り上げた壮大なテーマのような場面で宇宙を閉空間と定義したときは、エントロピーは増大し続ける、エントロピーが増大しなくなったら、それは絶対零度の宇宙の終わりだ、なんだかかんだか科学とからめた壮大な物言いができるので、物書きには都合がいいんじゃないかと勝手に考えてみたりしている。そしてそんなことだからさらにエントロピーの理解のじゃまをするじゃなか・・・・

 

かなり主観が入っていますので、気分を悪くされたら申し訳ありません。