口下手エンジニアの悪あがき

自動車エンジニアのつぶやき

ガソリンエンジンと将来(書きかけ)

今までエンジン開発に携わってきたため、昨今のEV化時代でエンジンがなくなっていく風潮には悲しい思いがあります。今一度、復習もかねてエンジンについて語りたいと思います。

熱機関

熱機関にはさまざまな種類があるが、自動車エンジンで使用されるものは、内燃機関ー容積式であり、乗用車の主流はガソリンエンジンである。低速でのトルクが太いことから主に商用に利用されている(一部で乗用車もあるが少ない)ディーゼルエンジンもあるが、排ガスに煤が多く含まれてしまい環境に悪いこと、フィルターでしっかり浄化されているとしていたが、先年VW社において排ガス不正が行われたことから、社会的に電動化シフトしていることを見ると先は短いと思われる。もちろんガソリンエンジンもだが・・・。

ガソリンエンジンでは、理論的にはオットーサイクルを用いた熱サイクルがなされている。

図1.熱機関の種類

オットーサイクルの理論

ガソリンエンジンに代表される火花点火式ピストンエンジンの理論サイクルである。燃料と空気の混合ガスに火花点火によって燃焼させる。

物理数学の直観的方法[ 長沼 伸一郎 ]

図2.オットーサイクルのPV線図

①行程1ー2:断熱圧縮

ピストンが下死点から上死点までガスを圧縮する工程

燃焼ガスの比熱比を \kappa 、圧縮比 \varepsilon=v_1/v_2 とすると、

p_1 v_1^\kappa=p_2 v_2^\kappa であり、理想気体の状態方程式 pv=RT より、

\displaystyle \frac{T_1}{T_2}=(\frac{v_2}{v_1})^{\kappa-1}=(\frac{1}{\varepsilon})^{\kappa-1}

②行程2-3:等容過熱

火花点火により、混合ガスが燃焼する工程

燃焼は急速に伝播するため等容過程であり、単位質量当たりの燃焼ガスが受ける熱量を q_1 とすると、熱力学第一法則によって dq=du+pdv にて、dv=0 であるから、

q_1 = c_v(T_3-T_2)

また、等容過程であるから、

\displaystyle \frac{p_2}{p_3}=\frac{T_2}{T_3}

③行程3-4:断熱膨張

混合ガスが燃焼し、ガスが高温高圧となり膨張仕事を行う工程

断熱過程であるから④と同様に、

\displaystyle \frac{T_4}{T_3}=(\frac{v_3}{v_4})^{\kappa-1}=(\frac{v_2}{v_1})^{\kappa-1}=(\frac{1}{\varepsilon})^{\kappa-1}

④行程4-1:等容放熱

燃焼後のガスを低温熱源に放熱(ガスの排気)する工程

燃焼ガスの単位質量当たりの放熱量を q_2 とすると、

q_2=c_v(T_4-T_1)

また、等容変化であるから②と同様に、

\displaystyle \frac{p_4}{p_1}=\frac{T_4}{T_1}

 

オットーサイクルの熱効率

\displaystyle \eta_{th}=1-\frac{q_2}{q_1}=1-\frac{T_4-T_1}{T_3-T_2}

\displaystyle \quad\ = \frac{1-[T_3(\frac{1}{\varepsilon})^{\kappa-1}-T_2(\frac{1}{\varepsilon})^{\kappa-1}]}{(T_3-T_2)}=1-(\frac{1}{\varepsilon})^{\kappa-1}

より、

熱効率は、\displaystyle \eta_{th}=1-(\frac{1}{\varepsilon})^{\kappa-1}・・・(1)

実際のエンジンサイクル

ここでは4サイクルガソリンエンジン、燃料吸気ポート噴射の場合を取り上げる。

燃焼に関係する主な構成部品としては、吸気バルブ、排気バルブ、ピストン、コンロッド、クランクシャフト、点火プラグがあげられる。

図2.ピストンクランク機構

①吸入工程

 ピストンは上死点から下死点へ移動するときに、吸気バルブを開くことによってインテークマニホールドから混合気をを燃料燃焼室に取り入れる。空気はあらかじめシリンダヘッドの吸気ポートを通過するときに、シリンダヘッドに搭載しているインジェクタ(燃料噴射装置)によって燃料が噴射され、空気と燃料が混ざり合った混合気となって燃焼室に流れ込んでくる。

②圧縮工程

 ピストンは下死点から上死点へ向かって上昇する。吸気バルブを閉じ燃焼室内を密閉空間にした状態でピストンが上昇するため、燃焼室の容積が減少し、取り入れた混合気を断熱圧縮する。

③燃焼・膨張行程

 ピストンは上死点から下死点へ下降する。ピストン上死点付近で点火プラグにより混合気に点火することで、燃焼室内の温度、圧力が急峻に立ち上がるため、その圧力によってピストンを下方向に押し付ける力、つまり仕事となる断熱膨張がおこなわれる。

④排気工程

 ピストンが下死点から上死点へ上昇する。膨張行程で高圧・高温ガスから仕事が取り出せて温度、圧力が下がったガスが燃焼室内に残っているため、次のサイクルに向けて残留ガスを燃焼室から吐き出す工程。排気バルブを開きながらピストンが上昇し燃焼室の容積が減少することで、燃焼室内の(外気に比べ)高圧となっているガスが排気バルブを通じてエンジンの外へ排気される。

実際のエンジンで起こる損失と改善方法

図3.オットーサイクルの理論線図

図4.実際の仕事および損失

損失の議論をする場合には、燃焼室に圧力センサを取り付け、圧力と燃焼室容積の関係を描いた指圧線図がよく用いられる。仕事は「圧力✖体積」となるため、指圧線図上の面積を計算することで各種損失を大まかに計算することができ、それをもとに熱勘定(ヒートバランス)を作成して、損失改善の検討に利用する。

それぞれの仕事および損失は以下があげられる。

正味仕事:エンジンの軸動力として取り出せる正味仕事

時間損失:オットーサイクルの理論線では上死点で瞬時に燃焼室内の燃料が燃焼し、温度と圧力が立ち上がるのだけども、実際には上死点の手前、点bで点火プラグで電気的に火花を飛ばし、それを火種として点火プラグまわりの混合器に着火させる。そもそも火花が飛んでから混合器に着火するまでの時間と、着火した炎が点火プラグ周辺から燃焼室の端まで伝播するのに時間がかかるため、上死点前後で緩やかに圧力と温度変化するため、理論線よりも内側で実際の圧力が推移することで、仕事が目減りしている。

冷却損失:燃焼室内の混合気が燃焼し、高温ガスになることで圧力・温度が急峻に立ち上がり、1000Kを超える温度に到達するが、そのとき燃焼室壁面はシリンダヘッド、シリンダブロック、ピストンで囲まれており主にアルミ部材である。アルミの融点は600℃程度であるため、燃焼温度をまともに受けていると解けてしまう温度に上がってしまうため、必ずエンジン内にウォータージャケットといわれる冷却水を循環させる穴がめぐらされている。一般的に冷却水は90℃程度になるようにラジエータサーモスタットで調整されているため、その温度を受けて燃焼室壁面は必ず冷却されている。冷却水からの距離もあるのでおよそ100℃~200℃程度の温度であるため、燃焼室との温度差でエンジン側への熱移動が生じ、熱移動分の仕事を損失する。

また、一定上の高温になると酸化反応で発熱して結びついた酸素が、再び還元反応を起こす熱解離を起こすために、温度Max点において発熱反応の足を引っ張ってしまう反応が起こり、これも理論発熱量から目減りする要因である。

排気損失:オットーサイクルの理論線では、低温熱源への放熱で等容冷却することになっているが、実際はピストンが下死点に到達する前に排気バルブが開き、燃焼室内の高温高圧ガスが大気へ放出されるため、燃焼室内の圧力は排気バルブ開放から一気に大気圧付近まで低下するためその分の仕事する機会を失い損失となる。

ポンピング損失:吸入工程と排気工程で、ピストンを移動させるための仕事損失。吸入工程ではピストンが上死点から下死点に移動することで、燃焼室内の圧力が負圧になり、その負圧によって燃焼室外部にある大気を燃焼室内に取り込むことができる。負圧に対抗するようにピストンが動くため損失仕事となる。また、排気工程では逆に燃焼室の高温高圧ガスを大気に放出するためピストンが下死点から上死点まで動くことで、大気側にガスを追いやるための損失仕事をしている。

摩擦損失機械的な摺動部分摩擦損失。ピストン✖シリンダボアでは、ピストンリングの張力でガスがなるべく漏れないようにピストン頂面付近をシールしているが、そのピストンリングがシリンダボアを押し付けながら動くために摩擦損失が発生。そのほかにお摺動部すべてに摩擦損失が乗ってくる。また、エンジンから動力を取り出した後も、トランスミッションなど駆動系の損失も含めて、タイヤまでにさまざまな損失が生じる。

将来ガソリンエンジンの活きる道

①熱効率の改善

オットーサイクルの理論熱効率式(1)から、そのサイクルを回すうえで効率改善として考えられるパラメータは基本的にはシンプルに2つしかない。もう一度式を書くと、

\displaystyle \eta_{th}=1-(\frac{1}{\varepsilon})^{\kappa-1}

つまり、圧縮比:\varepsilon、比熱比:kappa である。

圧縮比とは?

\displaystyle \varepsilon=\frac{v_1}{v_2} 

燃焼室がもっとも小さくなる時(ピストンが上死点にあるとき)の体積を v_1 、もっとも大きくなる時(ピストンが下死点にあるとき)の体積を v_2 としたときに、その比をとったものが圧縮比である。つまり、大きな体積をなるべく小さい体積に押し込めば押し込むほど熱効率は良くなる。ひと昔前は、ガソリンエンジンの圧縮比は「10」程度であったが、近年はトヨタのTNGAエンジン(型式A25A-FXE)で14.0をたたき出していたり、着火方式が若干異なるがマツダのSKYACTIV-Xエンジンではなんと16.3を記録している。

下に圧縮比を変えた場合の理論熱効率の変化をグラフにしているが、この大きさからも

圧縮比の及ぼす影響が垣間見られると思われる。(比熱比1.3固定)

図5.圧縮比と熱効率

次に、比熱比とは?

燃焼室内での作動流体の定圧熱容量 c_p と定積熱容量 c_v の比、

\displaystyle \kappa=\frac{c_p}{c_v}

である。もちろんはじめは空気とガソリンの単純な混合気であるが、点火後からは燃焼の発熱を伴う化学反応で目まぐるしく組成が変化していく。

ただし、この比熱比の値は、分子によって数値が決まっている。大きくは分子を構成する原子数で大きく異なり、原子数が小さいほど比熱比 \kappa は大きい。

図6.分子と比熱比


空気は主に酸素と窒素、そしてわずかな二酸化炭素混合気体となるため、比熱比は1.4といわれる。熱効率における比熱比の影響がこちらのグラフ(圧縮比12固定)であり、比熱比が変わると熱効率も大きく変化することがわかる。

図7.比熱比と熱効率

燃焼を考えると、比熱比 \kappa 1.4の空気に、炭化水素のさまざまな多原子分子の集合体であるガソリンを混ぜるわけだから比熱比は1.4よりも必ず下がる方向になるわけだから、熱効率を上げるためには限りなく燃料は少なく、空気を燃焼室に多く詰め込んだほうがいいわけだ。


スーパーリーンバーン(強タンブル流、強点火エネルギ、傘プラグ、副室、対向ピストン…)

②効率点での定点運転:e-Power

 

カーボンニュートラル燃料使用:e-fuel、水素

水素エンジン

水素燃料の課題(燃焼、水素脆化、出力、排気…)

燃料電池とはちがいます

 

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